【はんぶんこ】 食堂の長テーブルに腰掛けて頬杖をつく。斜め前の椅子に腰掛けて袋を広げている雪男に聞こえるように、これみよがしに溜息を吐いた。 「はぁ。…お前、その食べ方やっぱ駄目だと思う」 「…ん?」 目の前でぽりぽりと音を立ててポッキーを囓る雪男の姿を再び眺める。 なんていうか、持ち方とか口へ持っていく動作とかどうにもこう、えろい。 「なんつーか、あれだ。人前ですんなよ」 一本食べ終えて人差し指をぺろりと舐める。 別に舐めなくてもいいように根本の部分にチョコレートが掛かってないのに、何やってんだよ雪男。わざとか。 「人前って言われても…別にそんな大勢の前でポッキーを食べるような機会に巡り会うことなんてそうそうないと思うんだけど…」 袋の中からもう一本取り出す。 別にどれも差なんて無いのに、少しだけ選ぶように指がさまよった。 そういう小さな、どうでも良いはずのことで落ち着かなくなる。目に毒だ。 「『分かった』って一言言ってくれりゃ済むんだから、それで良いじゃねぇか」 思わずむすりとしてしまう。 「だって、絶対は有り得ないんだから簡単に約束なんてできないよ」 食べさしのポッキーをふらふらとさせて言い返してくる。 「俺は安心したいんだよ。お前が俺の知らないところで妙なおっさんにポッキー食べさせられたりしないって———」 「……ごめん兄さん、何の話…?」 「『雪男君、君の大好きなポッキーだよ』『ほら沢山お食べ』って」 「………突っ込まない。敢えて突っ込まないからね」 「『こんなに口の周りを汚して…いけない子だ…』って…くそ、俺の雪男に何しやがる!」 「自分の妄想にキレた!?」 ナチュラルに『俺の雪男』をスルーしたあたり自分の弟ながら末恐ろしい。 「大体お前がそんな食い方するから悪いんだ」 額を人差し指で軽く押した。 「そんなって言われても…自分ではどういう食べ方なのか一々意識してやってるわけじゃないからよくわからないよ」 同じような感覚はストローを軽く噛まれた時にも味わう。 具体的な例は出てくるのだが、それが結局何なのか自分の中で上手く言葉にならない。 一言で、と言われるともう「えろい」以外の表現が思いつかない。 「わからないよ、じゃねぇよ、わかれよ」 お前の方がずっと頭良いんだから。 「無茶ばっかり言うなぁ…」 飽きたのか、また黙々とポッキーと格闘する作業に戻る。 たかだかチョコレート菓子ごときに負ける兄、奥村燐。情けない限りだ。 流石にそのままでは自分のプライドにかかわるので、どうやって構って貰おうかと考える。 考えるのはあまり得意ではないが、この際仕方ない。 「なぁ、雪男」 「んー?」 軽く咥えたまま返事をする。 「それ半分くれよ」 先の方を囓って、取り敢えず喋る事に集中したようだ。 「…ああ、そう言えばそんなこと言ったね」 はい、と袋ごと渡そうとするのでそれを何も言わずに押し返す。 「…? 要らないの?」 不思議そうに首を傾げたが、すぐにどうでもよくなったのか続きを口に入れた。 「それ」 「む?」 「それを、半分くれって言ったの」 雪男は合点がいったようにああ、と言う。 「…半分で良いの?」 座っていた長テーブルから飛び降り、雪男の食べさしの下から三分の一ぐらいの部分を歯でへし折ってばりばりと噛み砕く。 「じゃあ、どんだけくれんの?」 「…好きなだけ」 「だと思った」 機嫌良く食べさせてくれることなんて滅多に無いので、今回ばかりは志摩に感謝しないとなぁ、と頭の片隅で思い、 三秒もしないうちに消し飛んだのだが。 / 「ポッキーゲームするぞ!」 「兄さん、僕の目が悪いのかな、何も持ってないように見えるんだけど」 「だってエアーだもん」 「エアーなら仕方ないね」 「だろー?」 「………あれ?」 「ん?」 「いや、おかしくない? ポッキーゲームってポッキーがなきゃ全く意味が無いんじゃないの?」 「細かいことばっかり気にしてたら老けるぞ雪男」 「………」 「ほら、ちゃっちゃとやる。先ずはポッキーを両端から咥える」 「ごめん兄さん、僕には何をどう咥えればいいのかさっぱりわからないんだけど」 「心の目で見るんだよ」 「無茶言わないで?」 「エアギターだって心の目で見ればギター弾いてるように見えるじゃねぇか」 「エアポッキーってもはやどう動作で表現すればいいのか意味が分からないよね?」 「ばか、切るところがちがうんだよ。エアポッキーじゃなくてエア、ポッキーゲームだ」 「あー、あー…ええっとつまり、ポッキーゲームをやってるように見せる…」 「大正解」 「…って楽しいの?」 「俺は楽しいよ?」 「………ハァ」 「たまには俺に付き合えよ」 「いつもさんざん付き合わされてるけどもういいよ」 「わかりゃいいんだよ」 【エビバデエアポッキーゲーム】 (…キスしたいなら、普通に言えよ)例年絵で見た方が面白いという実に分かりやすい理由でスルーしてたのに 某botちゃんのせいで妙なテンションで書き上げてしまった。つらい。 というわけで燐雪ちゃんとポッキーのお話。 2011/11/11(11/13格納)