※雪男フォン→スマートで格好いいビジネスの味方です奥村先生! 実を言うと一目惚れ、という奴なのです。 ほんまは坊の付き添いで店に入っただけで、つまり機種変なんて微塵も考えていなかったわけで、 そんな状態やったにも関わらず気が付けば書類にサインしてたのは坊やのうて俺の方やったというミラクル。 店員のお姉さんが可愛かったのも確かにあるけどそれよりも何よりも、もう見た目が。 見た目がどうしようもなく好みド直球で、バットを振る間もなく見逃し三振バッターアウト、いやもしかしたらデッドボール決められてたんかもしれへんけどそれは不問にしましょ。 兎に角もうどうしようもないぐらいしゅっとして格好いいわしかしどっか別嬪さんやわ、機能がどうとか説明されんでも即決するレベルで惚れ込んでしもたので、 あとはどれだけスピーディに契約するかというだけの話やったんです。 え? 愛称? あー、えっと…びっくりするぐらいなんでも出来るから、敬意を以て「先生」て呼ばしてもろてるよ。 本人は嫌がりはるけどな。謙虚やから。 まぁそういうところがまたええんやけど。 あ、せんせが呼んでるわ。 続きはまた後にでも。【Dear my Smart Phone】
「おはようございます、志摩君。九月二十五日、日曜日、午前七時半。アラーム設定時刻ですよ」 身体を軽く揺する。 あまり大声を出すなと言われているので(目盛りにして五分の三)普段声を掛けるのと同じぐらいで。 しかし、持ち主の意向を無視したい訳ではないが、彼の寝起きの悪さから考えるに最大音量で声を掛けるのが一番手っ取り早いはずだ。 全く。もう少し自分のことを分かってくれれば良いのに。 頭を抱えたくなりながらタスクを続行する。 「志摩君…志摩君。今日は予定が二件も入ってるんですよ」 一件目の予定に至っては今から1時間後に設定されているのだ。 このまま起きて貰えなければ予定の通知と合わせて倍ほどの勢いで声を掛けなくてはいけなくなる。 「聞こえてますか、志摩君。そうこうしてるうちにもう一分半ほど超過してるんです、よ!?」 布団の中に勢いよく引っ張り込まれた。 「あーもー、分かってますてー」 寝起きで目つきの悪い彼はぐりぐりと脇腹を押してくる。 「あ、ちょ、ちょっと志摩君、そこじゃないですって。アラーム解除するんでしょう? いたっ…、あっ」 「はいはい分かってます分かってます、そんな大きい声出さんでも良いですってば」 寝惚けているせいでボタンの位置を完全に間違っている。 「い、や、だから、そこじゃな…」 普段はそうでもないのに寝起きのがさつさだけは本当にどうにかしてほしい。いつ損傷するか分かったものではない。 確かにある程度のハードユーズは想定してあるものの、これは想定された使われ方ではないというか… 「だから、そのボタンは、あの」 「もー何やねん先生機嫌悪いのん」 ええいままよ——— 「だからそれアラーム一時停止じゃなくて音量調節ボタンだって言ってるでしょう!」 「ぎゃっ!」 鼓膜を破く勢いで絶叫してしまった。 おかげで思いっきり枕に押しつけられたがそれは仕方ないだろう。 しかしこれでなんとか目が覚めたんじゃないだろうか。 思いっきり僕を押しつけているこの手がもし寝ているのだとしたら相当な寝穢さだ。流石にそれはないと思いたいが…。 「…うー、つー、…あー」 何やらよくわからない音を発しながら彼は布団から這い出した。 「あー! もー! なんで朝なんて来るんやー!」 伸びをしながらかなり大きい声で文句を言っているようだ。 どうして朝が来るのか、なんてえらく哲学的な話をしますね。 ああそれとも、地学的見地から発言したんでしょうか。 確かに北極圏の冬は朝というものが存在しないですからね。何故朝が来るのかと言われれば緯度と季節の兼ね合いで、ということになります。 と、言って良い物かどうなのか。 兎に角今は話しかけるべき用事もないので大人しく布団の中に置き去りにされている。 体温がかなり残っているようで、少し暑い。 シャツを放り投げるように脱ぎ、明るい色のTシャツと皺加工のされたカッターシャツを取り出して高速で着る。 「嫌やわー、遅刻したら絶対坊に怒られるやんかー」 大丈夫ですよ、まだそんな時間じゃないですから。 「ていうか何やねん。急に寒なられたら服選びにくいやんか」 確かに気温は一週間前と比べて五度近く低いですけど。 「先生、パーカーはまだ早いですかねぇ」 急に話を振られた。 「日中は気温が上がると思うので、脱いで持っておくのが邪魔にならないなら構わないと思います」 「なるほどね。わかりました」 抽斗から黄緑色のパーカーを取り出して羽織る。 「どうです? 似合てます?」 「………カラーチャート的には間違ってないです」 「素っ気ないワァ先生。男前やーぐらい言って下さいよ」 男前かどうかの基準は残念ながら搭載されていない。『顔認識機能』ならあるが、そういう話ではないのだろう。 「そういうのは僕ではなくて———」 「はいはい分かってますて。偶には先生を困らせてやりたいってささやかな悪戯心みたいなもんです」 携帯相手に悪戯心も何も無いだろう。 「そんなことをしてたら遅刻しますよ」 余裕を持ってタイマーをセットしてあったとはいえ… 「心配しなくてももう出られます。ほな、行きましょか」 「………はい」 桃色の頭髪と黄緑のパーカーの後ろ姿を見ながら、どうしてこの人が自分のような地味な機種を選んだのか、 不思議に思いつつ、『不思議』という感覚自体が不思議なのだという堂々巡りに嵌ってしまった。 辞書的定義の保有と「感覚」の知覚はさっぱり次元の違う問題だ。 バグかもしれない。 次回のアップデートまでにエラー報告を出しておこう。 そこまで処理し、スリープモードに切り替える。 余計なことに電池を使うのは「スマート」ではないでしょう? / 「なー先生」 家電量販店の中を歩き回る。 「なんですか?」 いつも通りクールな返事である。愛想が微塵もない。でもそこが良い。 「やっぱり先生いつ見ても良いわァ」 思わずその澄ました顔にキスをかましたいぐらいには好きである。 まぁそれをすると嫌がるので(液晶保護付けてるのに「曇る」なんて仰るので)しませんけど。 「………選んで頂けて光栄です」 …おっと。珍しくデレはった。 まぁ理由ははっきりしている。 ここが丁度この店舗に於ける携帯販売コーナーなのだ。 先生と逢うたのは別の店やけども、なにがしか思うところ有るんやろうなぁと踏んで眺める。 いつも。いつでも澄ましている訳だが、じろじろと不躾に(自分で言うんかい、という突っ込みは甘んじて受けるが)見ていたら偶に、 ちょっとだけ恥ずかしそうにしてくれるのでもうそれを見るためだけに日がな一日用もないのに先生と遊んでたいぐらいである。 「一目惚れですからね」 かっと熱くなった。(というかこんだけずっと液晶表示させてたらそら熱くもなるんやろうけど) 「あ、あの、そういうのは…」 しかし、大きな決断である。 選んだ、ということはつまり選ばなかったということなのだ。 山ほど有る機種の中から先生だけの手を掴んだ。 俺にとっても大きな事だし、二年は確実にお付き合いが決まっているのでこれだけベタ惚れならもう幸せですね、そうですね、なのだ。 ただ先生に至ってはもう自分の選択権一切無しで決められた所に貰われて仕事をするのだから、持ち主に好かれるかどうかは死活問題だろう。 知り合いにも一人携帯の使い方が頗る荒い奴が居るが、ああいうのを見てると胸が悪くなる。 いくら自分の物だとは言え、傷だらけにするのはどうかと思うのだ。 まぁああいうのは反面教師にすることにしているが、それにしたってどうもよろしくない。 八つ当たりして壁にぶつけるなんて論外だ。 悪いのは自分であって携帯ではないのだ。 『えーこれぇ? あー親がうっさかったからさぁ、なんかぶちってきちゃってぇ、投げたらぁ、蓋が割れてさー、もうマジ有り得ないよねぇ。雑魚過ぎんじゃん』 電池カバーのない携帯を眺めていたら説明された。 正直誰が教えてくれと頼んだのだ、と言ってやりたかったが流石にそこは愛想笑いで流した。 あー、あー。 そうや。 嫌なことは忘れよ。 面倒なんが嫌でわざわざ遠くの街まで買い物に出たんやん廉造。 最初の目的を忘れたらあかんやろ。 暫く歩くと携帯カバーのコーナーが始まる。 「…なぁ先生」 ふと、別の事を思い出した。 「なんでしょうか」 「ちょっと地味やね、服が」 まじまじと見直してみるが、黒をベースにした相当落ち着いたデザインである。 店員のお姉さん曰く、『大人が持つ』スマートフォンだったらしいし、多分サラリーマンなんかの持ちやすいデザインになってるんだろう。 「…あー、えっと、一応基本モデルなんですけど」 別のカラーリングもあったはずだがもうさっぱり目に入ってなかったので何とも言い難い。 「よし、なんか派手な服にしたろ」 唐突な決意である。 「え? いや、何言ってるんですか?」 案の定、難色を示している。 「だってー、俺の服やら何やらに比べたら地味でおかしいとか文句言われたんですよ? じゃあ試しに先生にも派手な服着てもらうしかないやないですかァ…」 例えばそうやな…緑? あ、白でもええかな。 「ええええ!? いやですよ。だって僕はそのまま使えるように防水性の高い厚めの素材を、うわ、」 背の部分を撫でる。つや消しされた黒が格好いい。格好いいけど…なぁ… 「ゴツい割にどっか華奢なんも気になってたとこやし…」 「き、華奢じゃないです! 薄型なんです!」 迅速に反論された。 「そうでした。やけど確かに俺に合わせるとなると…うーん」 「あ、あの…あまり奇抜な色は…その…顔が地味なので、止めて下さい、できれば、なんですけど」 先生に可能な最大限抵抗されている。 「いや、あの、別に志摩君のやることに口出しをしたい訳じゃ無いんですけど、でも、あの」 余程いやなのだと見える。 「………さて、白とか試しますか」 「ひっ」 サンプルとして外に置かれているものを試着させる。 黄緑、ピンク、白、ドット…etc. もう脱がしたり着せたりする度にとにかく嫌がるので寧ろ面白くなってあれこれ着せ替えてみた訳だが。 「…うん、先生似合わへん…ね…」 「だ…っ…だから…だから…さいしょから…言って…」 めそめそとしている先生(泣いてはないけどな)を見てるとなんだか妙な気分になってくるが、気のせいだと思う。 「ていうかまずサイズがあんまり合わへんよね」 「こういうのは、もっと細身の機体を想定してるんです…だから…言ったじゃないですか…っ…そのまま使う事を想定した素材だって…」 まだ機嫌が直らない。 いや、正直やりすぎたかなぁ、と思ってはいた。でも面白かったのは事実なので後悔はしていない。 「ってことは先生着せ替え」 「しませんよ。そういうんじゃ無いんです。僕はもっと地味で、仕事しか出来なくて、せいぜいが水に強い位しか。見た目は残念ながら取り柄じゃないんです」 そう言えば『志摩君携帯変えてから素っ気なくなったよね』なんて言われたが、 よく考えたら絵文字が入ってなかったので打つのが面倒臭くて普通の日本語だけ入力したメールを送るようになった。 先生がそういうの苦手なんは知ってたけど、そんなんどうでも良い位先生に惚れ込んでたんです。 「…そうですかぁ?」 「…今更可愛い子が良かった、なんて言っても遅いんですよ志摩君。嫌でも二年は、」 「拗ねはった?」 「ち、違います」 「じゃあ何ですのん」 「…………いえ………大した事じゃないです…けど…」 「はい」 「…見た目も釣り合いが悪いし、機能もうまく噛み合ってないし、」 「…うん、まぁそう言われたらそうかもしれへんけど」 「…じゃあ、志摩君にとっては賢い選択じゃなかったんじゃないかと、思って、」 だー あー もう、先生! ほんまにもー、先生は…これやから…! 「あのね、先生」 「なんですか」 「だから、何回言わせるんですか。周りがどう言うかは大した問題やないですよ。俺がどうしても先生が良くて先生にしたんやもん」 割賦の金額が他の倍近くしていたが、それも込みで。 「俺が先生じゃなきゃいやなんです。アホで結構。あと、言うほど先生地味と違いますよ」 液晶カバー外したらものすごく綺麗な発色なんはきちんと知ってます。 傷を付けたくないから少し厚めのカバーを貼ってるだけで。 「………なら……良いんですけど…」 「心配せんでも、二年だろうが三年だろうが先生とお付き合いする気満々ですから、ね」 マナーモードにしたわけでもないのに、無言で裾を引っ張る先生が、 心底、 好きです。 / ※おまけ 雪男君と志摩携帯の場合。 「…なぁ先生」 「はい、何でしょうか」 「今アラーム設定時刻なんですわ」 「ええ、そうですね」 「…それより早う起きられたら、俺の仕事…無いやないですか」 「…うーん…まぁ、時間を知らせるのがアラーム機能ですから…」 「でもこれ正式名称目覚ましアラームなんですよ、先生」 「…はぁ」 「はぁ、やないですよ。偶には俺に起こさせて下さいー」 「と、言われましても…どうにも目が覚めるんですよね、勝手に」 「いやん。じゃあ俺本格的に何もせんでええやないですか…酷い…」 「まぁ志摩君がいつも六時を教えてくれるので行動の目安にはしてるんですけども」 「俺は、起こしたいんです。先生の寝顔をつつきたいんです。うっ…」 「ああもう、防水ついてないんですから水気はやめてください!」 「それに先生殆ど絵文字とか使わはらへんし」 「打つのが面倒なんです」 「俺、それだけは自信有るのに…酷い…」 「そんなところに気合いを入れるぐらいならもっとマシな変換にしてくださいよ。文節の区切りがどう考えてもおかしいでしょう」 「うっ…すんません…あの…アホですんません…」 「…まぁさして長文を打つ方では無いので、構いませんけども…」 「けど、あれですよ。可愛いって、女子には人気の…人気の…」 「済みませんね、女子じゃなくて」 「もうなんか全面的にすんません、ピンクですんません」 「どうしても入り用で、他に無かったんですから、どうしようもないですよ」 「そんな理由で先生に選ばせてしもた…うっ…」 「あー、そういう意味で言ったんじゃないですけど」 「うっ…」 「あれです、別に拘りはないので、使えれば良いですから…」 「先生、フォローがフォローになってへんよ!」 「………(めんどくさいなぁ…この機種)」 「うっ…どうせアホですよ。アホの廉造ですよ。金兄とあんまかわりませんよ。ちゃらいですよ。格好良くもないですよ。ランキング圏外の本気ですよ。うっ…」 「…あ、時間」 「あ、ああそないですか」 「で、マナーモードにするのを忘れないように、と」 「………(…このひと、俺に殆ど喋らせてくれへん…)」 「…(早く新しい携帯にしよう。そうしよう)」 ※※存外えぐい話になってきたので没にしました。笑日頃滅多にやらないようなテンションで日頃滅多に書かないようなn番煎じネタを日頃滅多にやらないパロでやってみたよ! まさかの志摩雪でだよ! そう。doc●moの戦略勝ちという奴なのです。 あのCMのインパクトは同人界を席巻し、 もうスマフォを人の形に見せるという集団幻覚を可能にするぐらいには完璧に各人の頭に刷り込みやがったわけです。 ええ。私とて例外ではありません。 雪男フォンがあったらぶっちゃけ携帯とiPhoneちゃんと雪男フォンの三台持ちにする勢いです。 一人に一台、雪男フォン。スマートです。実にスマート。 戦うビジネスマンにうってつけのスマートさなのです。スケジュール管理もしっかりしてるしね。 マナーモードにするとポケットの辺りを引っ張って教えてくれる訳ですよ。くいっと。 可愛いですねもうハァハァする以外の選択肢がありませんね。 真面目で仕事熱心で地味だけど可愛げがある雪男フォン。 通話は耳打ちしてくれるわけですね。耳が幸せですね? 携帯持ってるのに「ああ、ごめんかけ直して、雪男フォンの方に」とか言いたくなりますね。うへ。 で、電話の向こうの相手がぶっきらぼうに喋ってたらその通りに喋るわけでしょう、雪男が。 ナイス。ナイスだ電話相手。 …というようなあらぶりが文章になると 以下のようになるわけです。不思議だね−。 おまけに付けたのは逆版、というか 雪男が持ち主で志摩君が携帯のバージョンだったんですが 予想外に暗い話になりそうで我ながら驚いたという。 多分、雪男フォンで私の中の「例外」エネルギーを使い果たしたんですね。ごめんよ志摩携帯。笑 という荒ぶるキャプションをやらかした話でした 白目 2011/09/26(01/17格納)