※アニメしか見られてないのでここには情熱しかないよ^^^^
※※なんでこんなにも妄想が先走っているのかわからない。つらい。黄瀬君萌える。





 簡単に言うと、安っぽいカラー頁で見る顔であって生身の人間ではない。
 黄瀬涼太というのはきっと紙面の中で生きている誰かの事だ。少なくとも、こんな風に何もかもが面白くなくて辟易している奴の事じゃないんだろうなって。
 誰に向けてだかわからない笑顔を作って、好みのタイプって奴に答えて、ファンレターを貰ってサインして。それは全部『黄瀬涼太』なんだろうけど、俺みたいに腐ってはいない。防腐処理を完璧にされたゾンビみたいなものだ。ああ、でもそれじゃあ結局腐ってるのか。もうわかんないや。

 とにかく、生きてるようで生きてない。
 小学生の時はこんなに苦しかった覚えがないから、これが成長したって事なんだろうかと暫く考えてみたけど。けど、そんな成長ならしたくなかったなぁ、とぼんやり思って雑誌を閉じた。
 ファッション雑誌の誌面では爽やかに笑った『好青年』だった黄瀬涼太だって、ぐずぐず考え事をすることもあるんだよ、お姉さん。


【Fashionable Zombie】



「また駄目だったかぁ……」
 駄目なのをわかっていても試さずにはいられなかった。
 期待をやめたらそこで何かが終わってしまう気がしている。それは予感に過ぎない。予感は何も起こさない。けれど、結末の見えているもの程うんざりするものなんて他に無い。
「つまんないな、ほんと」

 体格が良い、と言うんだろう。モデルとしてスカウトされたのもそのせいだと思う。顔じゃなくて、体型。そりゃ確かに自分でも顔が悪い方だとは思わないけれど、遠目から見てもぱっと判るのは多分身長の方。背が伸びるのが人より早かったから、それがきっと目に付いた。それだけ。
 だから、スポーツが出来ればそれに越したことはないと思った。この身長は多分どこに行っても武器になりこそすれ邪魔にはならないはずだ。
「って思ったんだけど、まぁ現実は甘くなかったっスね」
 運動音痴ならどれほど良かったか、と思う。嫌味じゃなくて。
 努力して、自分が伸びるのを実感出来るのならそれはきっと楽しいはずだ。たとえ少しずつしか上手くならなくたって、自分がこつこつやっていけるものなら、それが一番良い。RPGみたいで楽しいでしょ?
 けど残念ながら俺にはバグがあったらしく、いきなりレベル20ぐらいからはじまる。最初の面とかかったるくてやってられない。周りが雑魚ばっか。戦闘回避も出来ない。
 そのだるさに耐えかねて結局ゲーム自体を放り投げてしまうのだ。スポーツって奴が、完全にその状態。教えてくれるはずの先輩が自分よりも下手だったらやってられないでしょ。実際問題やってられないから、入部なんて出来ない。
 あと言ってはなんだけど「根性さえあればいつか出来るようになる」みたいな考え方に今ひとつ共感出来ない。実際いきなりレベル20からスタートすれば誰でもそう思うはずだ。本当は努力の勝利を認めたいし、そうあって欲しいと思ってるけど、世の中そうそううまく出来てないこともよくわかってる。
 だって、三年間そのスポーツに打ち込んできた先輩を仮入部で叩きのめすのって、結構きつい。手を抜いて勝たせてあげる、なんてのはもっと失礼だろうから絶対にしないけど、それにしたってこの人達の三年間を俺は味わえないんだなって思うとなんだかげんなりしたのだ。友達と一緒に苦労して基礎練習して掴んだ勝利と、飛び込みで貰っちゃった勝利って重さが違うんだよ。ビギナーズラックだなんて強がりを言うのはやめてくださいね。余計げんなりするから。
 そんな感じで半分の部活は仮入部で諦めて、残り半分はもうやめておこうかな、と思っている。人間は学ぶのだ。何度も何度も絶望出来るほど純粋でもない。一割の希望に縋って試すのも、もう打ちきりたい。

「もう良いんだって。自分で決めたんだから。モデル一本で良いって」

 わざわざ口に出してみれば驚くぐらい負け犬の遠吠えっぽくて笑えてきた。
 けど別にスポーツが出来なくて逃げてきたわけじゃないんだから少々は言っても良いでしょ。

「良いじゃない、モデル。女の子にちやほやされるし。格好いい服も着せて貰えるし」
 今はこうして面倒臭いことも考えてるけど、いつかそれもやめる。考える事だってきっと諦められる日が来る。精々それまでは鬱々としていようかなって。
「けどそうだな。もしこれで考えるのをやめちゃったらどうなんのかな」
 本当に体格が良いだけで、他は全部腐っちゃった黄瀬涼太になるんだろうか。
 好きなタイプを答えられても、将来の目標を答えられても。趣味も好きな料理もみんなそつなく答えられても。でもそれって自分で考えたことじゃなくて結局求められたままに創り出した雑誌の中だけの黄瀬涼太じゃない。わぁ。やっぱり俺ゾンビになっちゃうんだ。
 洒落た服を着ただけの、防腐加工済みの、ゾンビ。

「それは一番に撃っちゃいたいな」

 バイオハザードみたいに。マシンガンでばばばばばって———

 マシンガンじゃないけど丁度タイミング良く携帯のバイブレーダーが振動してちょっとびっくりした。
「はい、黄瀬ですけど」
 予想通り次の仕事の打ち合わせだった。
 夏物の広告を兼ねた紙面になるんだと言う。インタビューなんかは無いらしい。良かった。今なんか聞かれたらうっかり変なこと言っちゃう気がして嫌だったんだよね。
「いえ、大丈夫っス。また明日にでも事務所に行きますからそんときにでもお願いしますね」
 通話終了ボタンを押して屋上にふて寝する。
 ああ、こんなとこで寝てたら変に日焼けして怒られるだろうな。けどあと十五分だけは良いかな。休み時間終わるまでは誰にも話しかけられたく無いから。


 雲が空気を読んだように俺の上で止まって日差しを遮る。
「はは、ラッキーだなぁ」
 こうしていつもいつもなんだかうまく行って、行きすぎて、それが全然うまくないんだ、という事を誰にも分かって貰えないまま、中学生の春を浪費する。





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全く今風の、ゾンビ。






丁度アニメで黄瀬君きらきらしてたのでつい……
なんか内心に鬱屈のあるきらきらしてる子が好きなんです
2012/05/08(07/15格納)