※赤司様麗しすぎて宗教。


 大凡どんな機会であれ『呼び出される』というのはあまり良い気分ではない。
 特に、我がバスケットボール部に於いて『赤司からの呼び出し』というのはあまりにも重い。
一体何を言い渡されるのか。下に落とされるのか。引き上げられるのか。
褒められるのか、それとも追加メニューを出されるのか。何れにせよ、出向く足取りは重くなる。
 つい先日も一人『退部』を勧告されたばかりである。
 そんな後だから、つい用心して五分ほど早めに来てしまった。大丈夫だ。
特に占いの順位が悪いということは無かったし、ラッキーアイテムの携帯ストラップもきちんと付けているし、上履きは右から履いた。
あとは天命を待つのみである。

 がらり、と扉を開ける。呼び出した当の本人はのんびりと詰め将棋の本なんぞ読んでいる。
「赤司、用件は何だ」
 盤を出してない。ということは今日は頭の中だけで棋譜を作っているようだ。
「ああ、えっとね。他の部員から君の態度について少し苦情があって、一応部長だからそこら辺ははっきりと言っておかないと駄目かと思って」
 相変わらず本から目を離さないで言う。
 呼び出しておいてその態度は無いだろう。少しむっとしつつ隣の席に座る。
「俺の態度? どういう意味だ」

 蛍光灯の光に紅い髪が透けて、なんだか不思議な色になる。
 日の光の元で見るよりも幾分か顔色の悪そうな男は、ふ、と溜息を吐いて本を閉じた。どうやら王手をかけられたようだ。
心なしか満足気に見える。主に、口元が。
「具体例を挙げれば良いというものでもなさそうだね。簡単に言うと、チームメイトは君に何らかの壁を感じているらしい。人当たり、という意味で」
 淀みなく赤司は言う。
「人当たり? 何故俺の性格のことまでとやかく言われねばならんのだ」
 ついきつめの口調で言い返してしまう。が、別にこれは赤司の言っていることではなく、
赤司が単に部員に陳情されたものをそのまま言っているだけなのだ。
目の前の男相手にかっとなるのもお門違いというものだろう。少しばかり反省した。
「まぁバスケはチームプレイだからねぇ。あまりにも孤立されると困る、というのはあるよ」
 真っ直ぐにこちらを見て、ゆるりと微笑んで見せた。
 そういう態度を見るにつけ、人を解った奴なのだな、と思ってしまう。ここで真顔であったり顰め面をされたりしていれば、きっと俺はむきになって反論しただろう。
 こわい、おとこだ。

「………それは今のスタメンからも、そう言われているのか」
 そう訊くと、静かに頭を振った。
「君には今のスタメンに選ばれている連中が、きちんと他人のことを見ているように見えるか?」
 とてもそうは思えない。———俺自身も含めて。
「なら問題は無いだろう、と言えばいいのか、それではまずいから呼び出されたのか判断に苦しむ所だな」
 すると赤司は少し考え込むような素振りを見せて、
「部長としての意見を述べさせて貰うなら、君は『和して同ぜず』という言葉を覚えた方が良いかもしれないんじゃないかと思うけれど」
と返事を寄越した。
 どういう漢字を書くのか、候補が絞れない。
「どういう意味なんだ?」
「協力して調和は保つが、むやみに人に従ったりはしない、という。調和の和、同意の同」
「ふむ。それは理想だろうな」
 実際、あれだけ個性の強い面々が揃っていれば同じ意見になる方がおかしいのだ。
「チームとしてプレイできるだけの協調性があれば、僕は問題無いと思っている。流石にスタメン全員にやり辛いと言われたら交替を考えなくてはいけないけれど、
きっと最低限の譲り合いが出来るのならそれで良い奴らだろうから」
 確かに。ノルマの点を取れさえすれば良いのだから、一丸となる必要性などどこにもない。
「ただ一部とは言え苦情が出ると言うことは、君には少しその協調性が欠けているように受け取られているらしい、と、部長職の僕は言わなくちゃならない」
「なるほど。悪かった、善処はしよう」
「おや。僕は彼らに対しても『きちんと部長としての責務は果たした』と言わなくてはならないのだから、今後はそれなりに気を遣ってくれないと」
 笑いながら言う。
 まるで『善処はしたが根の深い問題でとても手が付けられなかった』という言い訳をする前から見破られたようである。
「それは済まなかった。話はそれだけか?」
「ああ、部長として言うべき事はそれだけだな」
 何だか含みのある言い方をする。
「じゃあ、部長でないお前に何か言いたい事でもあるのか」

 す、と手が伸びてきて、くしゃくしゃと髪を撫でられた。

「部長としてはね。別に従わなくても良い、と言えるのだけれど」
 眼を細め、唇を持ち上げ、
「個人的には『言う事を聞かせたい』欲求を持て余している所だよ」
などと囁いた。

 ほんとうに、ずるいやつだ。
 ひどいおとこだ。

 今すぐにでも膝を折りたい衝動を押し殺して、眼を逸らす。
 あの眼に見られ続けたら正気でなくなる。そんな気がする。

「さて、僕らも練習に混ざらないといけないね。そろそろ行こうか」

 す、と立ち上がると、荷物を纏め、何事も無かったかのように教室の扉を開けた。
 そこから先は、いつも通りだ。そういうことだろうか。

「赤司、」
「そうそう。僕は勝つためなら何でもするけれど、流石にわざと負けてくれ、なんて無粋なことは言わないから安心して良いよ」
 暗に、練習が終わったら一局指せと言っているらしい。
「………わかったのだよ」

 プライヴェートの話は練習の後で。
 続きもその後で聞く。そういうことらしい。


 まったくおそろしい、


【千里眼】




(見抜かれている。見破られている。あの眼は千里を見通せる)




緑赤はもうちょっとあっても良いな、あるべき、と思って。つい。なんか久しぶりに短編書いた気がする。
どうでも良いけど赤司様美しすぎて死ぬ。 そして公式が何も言ってくれないから勝手に妄想の中で 赤司様が良いところのお坊ちゃまで上に何人か兄弟が居て「勝てない奴はゴミだ」みたいな環境で育ってて負けず嫌いとかそういう次元通り越して負けたら死ぬと思ってる みたいななんだかそういう妄想に取り憑かれて夜しか眠れないのでいい加減そのあたり詳しく説明下さい。 ていうか征十郎ってどう考えても長男の名前じゃないし。次男の名前でもないし。 アッいや、そういう話じゃないんだけども
2012/07/15