「真ちゃーん。誕生日おめでとう」
 そう言ってダイブを決めた。
 利き腕を押さえつけると心底嫌そうな顔をする。狙い通り。
「……重いのだよ」
 そりゃまぁ? ちょっと押されただけで吹っ飛ばされるようなやわな体格じゃあないもんね。
 小さく見えるのは気のせいです、気のせい。
そりゃ二メートルとかと比べられたら小さく見えるかもしれないけど高一の男子生徒ずらっと並べた中で特別小さいって訳でもないと思う。
や、実際並んだわけじゃないけどね? 感覚だけどね?
「えーそう? 俺の愛だと思って受け止めてよ」
 65Kg分の愛。
 うーん、重いのか軽いのか我ながら難しい所だけど、どう思う? 真ちゃん。
「だから、それが重いと言っているのだよ」
 かちゃり、と眼鏡を押し上げたのはいつもと反対側の手だ。
「あれ。重たかった?」
 割とどっちでもいいつもりだったけどこうしてはっきりと「重い」とか言われると何か血が騒ぐっていうかなんていうか。
「随分とな」
 失礼な奴だ。
 こんなにも気楽で居心地の良い関係を提供してやっているというのに、真ちゃんはその辺わかってなさ過ぎる。ちょっとは俺の空気の読み方を見習えば良いんだ。
 と、思ったが次の瞬間に「空気の読める緑間真太郎」という生き物が明らかに非実在の存在であったことを思い出した。
そうだ、そうだった。放っておいたらお友達? なにそれ食べられるの? になっちゃう奴だった。
 ま、そこが好きなんだけどね。
「そりゃごめん———なんて言うと思ったか隙有り!!」
「や、やめるのだよ!」
 空いた手で脇腹を取りに行く。何事にも動じない風に見えて案外この手のスキンシップに弱い。それもそうだろう。
たかだか高校に入って三ヶ月ぐらいの付き合い———まぁ春休みから部活では一緒だったけどそれも含めて四ヶ月弱。
たったそれだけ見てても十分「人付き合いの出来ない」人間だってことは見破れた。
 いや、何も俺の「鋭い眼」なんてものがなくたって一目瞭然だ。寧ろ天下の帝光バスケ部では浮いてなかったのかどうか心配になるレベルで人間の輪の中に入れていない。
浮いてる。猛烈な勢いで浮いてる。
「そこでやめる俺だと思ったか、うりうり」
 そもそも人と喋る段階で躓いているのだ。他人と触れあう、というのがちょっと考えられない。
となると、家族以外でこうしてべったべたと遠慮無く触っているのが自分だけなのではないか、等と考えて何故かちょっとした優越感に浸っている現状。
 どうだ、羨ましかろう。キセキの世代の一角をペットも同然に撫で回してるんだぜ。凄くね?
「ほ、ほんとに、やめろ、」
 あれ。やめるのだよー、じゃないの、真ちゃん。
「冗談はよすのだよ」
 あ、そこは譲らないんだ。
「それより急に何だ」
 俺を押しのけようとしているようだが、利き腕を庇ったままではうまくいかないだろう。見込み通りで本当に有り難い。
「何だって? え、だから言ったじゃん。誕生日おめでとうって」
「それは解った。だがこうしてのし掛かられる意味が解らん」
 またまたぁ。そうやって鈍いふりしちゃってー。俺に皆まで言わせるの? 言わせちゃうの?
「だから、あれだって。『プレゼントは俺だよ真ちゃん!』って奴だろ」
 ぽかんとしている。
 ははーん。さては緑間選手、バスケが恋人だったせいでそういうのに極めて疎いな。今時珍しいぐらいの俗世からの浮きぶりじゃないか。
「愛想でもいいからそういうときは喜んどくものだって。友達だろうが」
 まぁ実際『友達』にそんなこと言われたらドン引きにも程があるけどさ。
「はぁ……」
 今ひとつ釈然としていない顔である。
 ほんっとにもう。俺が女の子だったら速攻ビンタして別れを切り出してる所だぜ真ちゃん。や、別に女の子じゃないからしないけども。
「なに、その顔」
 文句があるなら直接聞くぜ? あ、クーリングオフとかそういうサービスはねぇから、

「……いや、もう既に持っているものを今更あげるなんて言われたところでどう反応すれば良いか解らんのだよ」

 しれっと。さらっと。
 ごく当たり前のようにエース様はのたまった。

「うわぁ……真ちゃんって……」
「何だ?」
「や、別に……」

 たまーにこういうことをやるから。くそ。

「あーくそ、悔しいな。俺のこと貰って、真ちゃん」
「だから、最初から、」
「そういうんじゃねぇんだってば」





【Happy birthday dear my Ace】









趣味の人選その一。高緑可愛いよね大好き。と、言っておきながら高尾→緑間→赤司の一方通行が好き。
2012/07/07(08/07格納)