適当に頼んだピザを食べながら、タツヤは録画していたNBAの試合に夢中になっていた。
 なんて観察できるのだ。オレの方はピザにもバスケにも集中できていなかったということで間違いない。
白状すると、ピザのチーズが伸びる度に服にこぼしそうになるタツヤの無頓着さに勝手に冷や冷やしていたせいである。
 日頃は兄のように何かと世話を焼いてくれるタツヤだが、たまにこんなふうに、テレビに熱中して手元が留守のまま物を食べたりするときがある。
そんな時はむしろこちらが世話を焼かないといけないような気持ちになるのだ。
 なあ、トマト落ちそうになってる。
 そう言ってやっても、タツヤはジョーダンのダンクにしか興味がないらしく、危なっかしい食べ方をやめない。
「タツヤ!」
「ん?」
「それ、落ちそうだろ。食べるか見るかどっちかにしろよ」
 そう言うと、不思議そうな顔で、
「え? タイガは家でテレビ見ながらご飯食べないの?」
なんて言う。
 こっちではそれが普通らしい。オレよりアメリカ暮らしが長いタツヤにとっては、テレビと食事を切り離す方が不自然なのだ。
 が、それならそれでもうちょっとうまく食えよ。気になる。
「タイガはたまにお兄さんみたいなことを言うな」
 ピザを持っていない左手でリモコンを操作し、一時停止にした。スリーポイントが入るか入らないかのところで画面は止まっている。
「あれ、あんまり減ってないじゃないか。今日はそんなにお腹すいてなかった?」
 既に三種類頼んだうちの一種は完食しているのだが、確かにいつもよりは遅いかもしれない。
「や、なんかタツヤのこと気にしてたら食いそびれた」
 間違ったことは言ってない。が、少しだけ、タツヤは変な顔をして見せた。
「食い気の塊がピザより気にすることなんてあるのか」
「ああ。ピザよりバスケより気になったな」
 が、今はおとなしく食べることに集中したので見てなくても大丈夫か。
すると思い出したように腹が減ってきたので、二枚まとめて一気に平らげる。
「えー、じゃあタイガはジョーダンのダンク見てなかったのか?」
「それは見てたけど」
「反応薄いな」
「だってダンクならもう自分でできるしな」
 油と小麦粉のついた指を舐めていたタツヤがふとその動きを止める。
「………………まぁ、そうだろうな」
 妙な間だったが、その後は何事もなく次の一切れに手を伸ばしたから、特に気にもしなかった。
というか、もごもごと口を動かすタツヤをあまり見すぎると変な気分になる。

(それもこれも、アレックスが馬鹿なこと言うから)

 タツヤは男が好きだからな。
 なんて、まるで明日の天気でも言うような調子でとんでもないことを言った。それも本人の居ない所でだ。
 そういうのってあれだ。難しい話っつーか、そんなあっさり言って良いことなのかよ。言った方より聞いた方が頭を抱える。

 男がすき。

 確かにタツヤは綺麗な顔をしていると思う。女の子の可愛さとは何かが違うのだが、その差がなんなのかはよくわからない。
 けど綺麗だから男が好きなんだ、というわけでもないだろう。じゃあ、綺麗なのに?

「どうかしたの、タイガ」
「…………どうもしねーよ」
 どうもしない。直接言われたわけでもないんだし、どうかするほうがおかしい。
 おかしいんだけど。

 もしもタツヤに「好きだよ」なんて言われたらきっと勝てない気がする。
 まだガールフレンドの一人も居ないのに。
 じゃあ最初に付き合うのがタツヤになるのか。それもどうなんだ。
「なんか難しいことを考えてるように見えるよ」
 実際難しすぎてパンクしそうだ。
「そ、そっか?」
「うん。タイガは考えるの得意じゃないんだから、無理しちゃ駄目だろ」
 そう言って、くすくすと笑った。

「う………うるせーな」

 しかしすごく馬鹿馬鹿しい話だが、もし今タツヤに好きだと言われてもキスだけは勘弁してもらわなくてはならない。
 はじめてがピザの味のするキスなんて、なんか嬉しくねえよ。

 冷えつつあるピザをかじりながら、目はあの口元に釘付けだった。


 よくあるはなしだろ?
 ガキの初恋みたいな。
 まあ甘くはないし、やたらチーズ味ばっか思い出すんだけどさ。



【アメリカン・メモリー】



 でもってピザを食うと条件反射であの口元を思い出すのも、





微妙に噛み合ってない火神君と氷室さん
2012/07/20(08/07格納)