不自然な取り合わせだと言われたことがある。 タイプがあまりにも違いすぎて、どうして一緒に居られるのか理解に苦しむ、らしい。 確かにそれもそうだ。 俺は真剣に頭を悩ませた。思索/試作
俺と男鹿を同じカテゴリーに突っ込んでいる奴が居るとしたら相当大雑把にしか人間を分けていないんじゃないだろうか。 例えば、男子高校生である、とか。 最悪、人間かそうでないかぐらいの大雑把さ。 でなければ、男鹿との間の共通項の少なさから言ってかならずどこかしらで分類を別にするのである。 そりゃ幼馴染みだから出身中学なんかは当然同じなんだけども。 大体、人間という奴が必ず自分に近い連中とだけ居るのか、と言われると中々そうとも言い難い。 自分に無い物がある、というのは誰にでも言える事で、だからこそ他人と居るのは楽しいのだ。 となると、俺は自分に無い物を求めて男鹿といるのか。 それもなんだかしっくり来なかった。 確かに男鹿は俺に比べれば格段に、というか次元の違う強さの男だが―――でもそれだけだ。 男鹿のようになりたいと思った事は残念ながら一度も無い。 喧嘩に明け暮れる毎日なんてまっぴらごめんじゃないか。 そんなことより可愛い彼女の一人でも作ってデートするほうが絶対楽しい。 憧れがある訳でも無い。 近い訳でもない。 ただ何となく、正に腐れ縁という奴でしかない。 「うーん…なんでかねぇ」 「なにが」 口に出すつもりはなかったのだが、うっかり、という奴である。 しかもばっちり聞き返されてしまった。 ―――男鹿のやつも、ゲームにもう少し集中して取り組んでくれていれば良かった物を。 「いや、ほら。俺とお前のキャラが違いすぎて妙だって言われたんだよ」 因みにそう言ったのは割とキレイめなお姉様(上級生)だったからよく覚えているのである。 「妙?」 自分の方がよっぽど妙な顔をして繰り返した。 画面上の戦闘は佳境に突入しようとしている。 「おい、ゲームゲーム。それ中ボスだろ、セーブしてないんじゃなかったかお前」 そこで死んだらまた随分と前からやり直しじゃないか。 お前の一時間が水泡に帰すぞ。 ―――とまでは、言わなくても伝わるだろう。 「ああ…おう」 何ともぼけた返事を寄越して一応画面の方に向き直る。 見慣れた後ろ姿(ゲーム中は少し姿勢が悪い)を眺めながらさっきの続きを考える。 腐れ縁に理由を求めることは難しい。 大体説明出来ないからこそ、人は腐れ縁という便利な言葉を生み出したのだ。 折角の先人達の知恵に逆らってみても仕方が無い。 行き詰まったので、見方を変えて周りにはどう見えていたのかについて思い巡らすことにした。 そういえば、かなり早い段階からありとあらゆる時にセット扱いになってしまっていた。 小さいものでは遠足の班分け、大きな話ではクラス分けまで。 どうせ一緒になるなら可愛い女の子の方が良かったが、どうにもそういう風にはできていなかったらしい。 『古市君は「男鹿係」なんだもんね』 小学生の時好きだった近所のお姉さんに言われた。 どうやら同じ学年に居る彼女の弟がそう言っていたらしい。 男鹿係、という尋常ならざる響きに俺は顔を引きつらせることしか出来なかった。 飼育係、植物係、体育係、男鹿係。 世間様に於ける男鹿の扱いにも愕然としたが、その男鹿の責任者にされてしまった自分の不運ぶりにも呆然とした。 (しかし男鹿係なぁ…なんていうか、或る意味間違ってないところが嫌だな) だだだだ、という戦闘用の音が止まり、安いファンファーレが鳴る。 「お、勝ったの」 考えるのに飽きてきたので、話を振る。 「勝った。で、さっきの話は何だったんだ」 …まさか覚えていたなんて。 天変地異の前触れか? いやー、あれだけ人の話を聞かない事に定評のある男鹿が覚えてるとは… 「いや、なんで俺が男鹿係なんかやってんのかなって思っ…あ」 「男鹿係…?」 しまった。 驚きのあまり余計な事を言っちゃったじゃないか。 「ああ、えーと、ほら。小学生の時にそういうことも言われたなぁとか思ってただけで」 …うわぁ、超機嫌悪そうだ。 失言にも程があるだろ、俺。 大体、男鹿係なら男鹿の扱いぐらいきちんと出来て当たり前だろうが――― って。冗談言ってる場合じゃ無いだろ。 「…お前は嫌なの、男鹿係」 とか一人ツッコミしてる間に斜め上に暴投されてしまった。 「は?」 しかも、怒鳴るでもなく、殴るでもなく、ちょっとがっかりしたような調子で言われても困る。 「お前以外居ないだろ、男鹿係できる奴なんて」 つーか「しょうがないなぁ」みたいなテンションで言うか、それ。 「…お前どういう意味で言ってんの、それ」 「つーかよ、俺とずっと居るのってお前ぐらいじゃね? じゃあ係もお前以外居ないだろ」 さも当然の事のように言う。 まさにその話で頭を悩ませていたんだが。 「じゃあ聞くけどさ。男鹿はなんで俺といるの」 駄目元で当事者を問いただしてみることにした。 いや、俺も当事者の一人なんだけどね。 そこはもう考えに考えたから赦して下さい。 「…あ?」 怪訝そうだ。 確かにいきなり切り出すタイプの話では無かったかもしれない。 だが前置きに何を言えばいいのかよくわからないのでもうそのまま押し切ることにした。 「だからぁ、何で俺以外にまともに友達作ってねぇの?」 そこから暫く何とも言えない間が空いて、 「あー…そりゃ…あれだ。めんどくせぇからだよ」 やっぱり考えるのを諦めたような答えが返ってきた。 「なにそれ」 そりゃ最初からそんなに期待してた訳じゃないけどやっぱりそれなりにがくっときた。 「…なぁ古市」 そんな俺の内心を知ってか知らずか男鹿は続けた。 「ん?」 「お前なんで俺以外友達いねぇの?」 …まさかの切り返し。 質問に質問で返すなんて暴投が来るとは思わなかった。 完全にボールである。 「え…いや、居ないとかそんなんじゃないから。男鹿と一緒にすんなよ」 誤解を招くような表現は止せ。 「じゃあ名前挙げられんのかよ。誰が友達なんだよ言ってみろよ」 小学生か、お前は! 「ぐ、あ…いやまだ高校では新しい知り合いが出来てないだけでだな」 俺が如何に友達に満ち溢れた学生ライフを送っているかを説明しようとしているのに、 「…俺とずっと一緒にいるからだろ」 またもやボールである。 もうこいつのキャッチャーやるの嫌だ。 「は?」 あいつの中にはそれなりに筋道なり論理なりが有るんだろうが、それが常人にはさっぱり理解出来ないのだ。 話が飛びすぎる。 「だからお前は男鹿係とか言われんだよアホ市」 やれやれ、どうしようもないな古市め。 と、顔が思いっきり語っている。 うわー、ほんと腹立たしいなこいつ。 「お前にアホとか言われたくないわ馬鹿男鹿」 条件反射のように返してから、どうにも引っ掛かる言葉があった事に気がついた。 男鹿と居るから、友達が出来ない―――だって? 「つーか、ここまで言ってもわかんねぇならそれで良いわもう」 溜息を吐かれた。 「なんだよその態度は。寧ろきちんと最後まで言うのが筋だろー」 無性に腹が立ったのでヘッドロックを決める。 男鹿相手なのではっきり言ってダメージゼロなのは分かっているがそれでもやっておきたい。 勝ち負けの問題ではなく人には戦わなくてはならないときがある。 あ、今俺ちょっと格好いいこと言ったかもしれない。 ちょっと悦に入っていたところに男鹿という奴は―――こいつはいつもそうなんだが、 「…お前には俺が居ればそれでいいじゃねぇか」 華麗に、確実に、 投手の癖にホームランクラスのかっ飛んだ投球をしてくるんだよ。 フォアボール。 俺は頭の中で見えもしないランナーを見送りながら、 ロックしたままの投手の首をどうやったらへし折れるのかについて真剣に頭を悩ませることになった。古市は頭の良いアホなんじゃないかと真剣に思ってます。 男鹿は馬鹿だけど自分の事はしっかりわかってそうな。 話がコロコロ変わるのは会話の本質だと思います。 断じて私の計画性の無さのせいではなくt 2011/04/10