「それくれ」 深い紫の、冷たくて甘いやつだ。【初夏限定。】
「えー、お前さっきから取りすぎだろ」 昔は箱で売っていたのに、最近は妙な袋売りになった。微妙に持ちにくい、と古市はよくぼやく。 ぼやく割に好きで買っているようなので、あまり大した問題ではなかったのだろう。 「良いじゃねぇか、減るもんでもないんだし」 そろそろ暑くなってきた。わざわざ外で買うほどではないが、あるならあるに越したことない。 「減ってるよ!? 確実に中身減ってるからね!?」 そう言いながらさっさと口に入れてしまえば良い物を指で摘んだままいるあたりが、古市の古市らしいところではある。 「うるせぇなぁ古市」 溶けるんじゃないか、とこっちが心配になってきた。 「横暴だ」 「じゃあ俺が買ったときに一個やるから」 から、溶ける前にくれればいいじゃねぇか。 「お前大体自分で買わねぇし。しかも一個って。お前自分がいくつ食べたかも数えてねぇのか」 一個だろ。あれ? 二個だっけ。あー…わかんなくなってきた。 「…? …?」 「もうやだこいつ」 呆れたように言う。白い指に薄紫の液体が伝う。 古市は馬鹿なので、気が付いていない。 「でもお前、俺から貰ったら嬉しくないか?」 ちょっとだけ。ほんのちょっとだけの期待を込めてそう言う。 「そりゃ普段の搾取で帳消しだ」 嬉しいのは否定しないのか。それとも単に気付いてないのか。どうなんだ古市よ。 「…俺は、お前のが欲しいの」 もう少しだけ、押してみる。気付いて欲しいような、気付かれるのが怖いような微妙なところではある。 あと、ほんとにさっさと食べないと大変なことになりそうな気がする。 「だからお前どんだけ横暴なんだよ。ガキか」 …もう良いか、良いよな。古市馬鹿だし、これ以上言っても仕方ないよな。 手首を捕まえて半分溶けたようなアイスを『貰う』 「あ! てめ…人が嫌がってることをしちゃいけませんー!」 手首まで流れていたのをなめる。少し温いし、何より汗が混じって塩っぽい。 「じゃあさっさと食っとけばよかったじゃねぇか」 けどまぁ。悪い気はしないのだ。だって古市だから。 「………!!」 今気付いた、みたいな顔だ。…やっぱりこいつ馬鹿なんじゃないか? 「馬鹿だなぁ、古市」 「う…うるせぇよ!」 がーっ! と吠えるような勢いで言うと、袋の中に残っていた最後の一個を口の中でばりばりと噛み砕いた。 もうちょっと暑くなったらこんな馬鹿なやりとりも出来なくなるんだなぁ、とか思うとまだしばらくは暑くならないで欲しいと思ったり、する。長さが余りに短いのでいきなりwebもなぁと思ってまとめてpixivに上げていたのの片割れ。 暑い時期にはこういう話が書きたくてうずうずします笑 2011/05/30(6/27格納)